僕は今、東南アジアで生活している。現地に到着してから2ヶ月が過ぎようとしているが、ずっと同じホテルに住み続けている。
もちろん、より快適な場所を求めて、ホテルを住み替えるのは自由だ。ところが、現状バイアスが働き、転々とすることを好まない性分なのだ。なにより、長くいると居心地がよくなってくる。Wi-Fiが不安定という致命的な欠陥を抱えているホテルなのにも関わらずだ。
例えば、朝食。
席に着くなり、スタッフの方が「コーヒー」と「紅茶」、どちらが良いか聞いてくれるのが通常の接客だ。
最近では何も聞かれずに毎朝そっとテーブルの上に紅茶を置いてくれる。僕が毎朝、紅茶を選ぶことを覚えてくれたのだ。
しまいには、僕がどこに座るのかまで覚えてくれて、料理をとっている間に紅茶をいつもの席に置いておいてくれる。
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朝食のブッフェにはライブキッチンコーナーがあり、目玉焼き、オムレツを目の前で調理してくれて、あたたかい卵料理を提供してくれる。
目玉焼きは、片面だけ焼くのか、両面焼くけどサラッとなのか、両面ともしっかり焼くのかなど、細かく趣向にあわせてオーダーできるのがライブキッチンの醍醐味。オムレツも玉ねぎ、にんじん、キノコ等をミックスできる。
僕の場合、目玉焼きは両面しっかり焼き、オムレツは決まってプレーンだ。毎朝、同じものをオーダーしていると、調理人も僕の好みを覚えて、僕が頼むより先に、手が動き始める。
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知らない土地でも、自分の居場所があり、自分のことを覚えてくれている人ができる。それだけで街に溶け込み、一員になれた気がする。
気の利いたことを言わなくても、目立つようなことをしなくていい。ただ、自分の中での定番を繰り返しているうちに相手の方から覚えてくれる。
これはちょっとした長期滞在で新たな居場所を見つけるコツだと思うのだ。