生前、祖父が愛用していたバルナックライカllla。フイルムカメラに熱をあげていた僕の手に渡ってきたのだが、祖父が使用していたであろうフィルムが装填されたままだった。
祖父の最期の写真を綺麗に現像したく、自由が丘の「ポパイカメラ」まで足を運んだ。
一ヶ月後、現像されたネガを受け取ったが、フイルムには何も映っていなかった。
カメラ好きの祖父だったから、亡くなる前、病室までカメラを持ち込んでいたらしい。ところが、撮影する気分にはならなかったのだろう。
祖父のバルナックライカlllaは僕が引き継ぐことになった。
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テスト撮影した結果、カメラ内部にフイルムの破片が混入していることが発覚。他にも、レンズは手では外せない程に固着していたり、ファインダーは快晴の日でも残念なほどに曇っていた。
オーバーホールはどこへ出したら良いのだろう。祖父の形見だから、大切に扱ってくれるお店へ出したい。
結果に大きな差が出てくるものだから、病院や歯医者のように、信頼できる方からの紹介が賢明だ。
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僕がフイルムカメラへ興味を持ったきっかけは平岡雄太さんのブログ「DRESS CODE.」。現在はユーチューバーとして活躍されており、その中で紹介されていたのが、日暮里のフィルムカメラの修理専門店、「三葉堂寫眞機店」。
平岡雄太さんに会ったことはないが、ブログ記事、YouTubeの投稿を拝見していて、考え方には共感できるし、人柄も信頼できるなと日頃から思っていた。彼が推薦するフイルムカメラ専門店へ祖父の形見を預けることにした。
修理費用の見積もりはカメラ本体とレンズのあわせて10万超え。ちょっとした良いデジタルカメラが新品で購入出来てしまう価格に戸惑ったが、祖父の想いを引き継ぐことはそれ以上の価値があるので、修理を依頼することに。
これは、まだ蝉の鳴き声がアスファルトの道路を叩きつけている2021年8月下旬の話。
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オーバーホール完了の連絡が届いたのは、マフラーが手放せなくなった2022年1月下旬頃。
事情を聞くと、オーバーホール自体にはさほど時間はかからないのだが、年々減っている修理熟練者に対して多くの依頼が殺到しているそう。
コロナ禍で部屋の整理整頓をする機会が増え、昔のフイルムカメラが引きずり出されてきているのが背景にあるらしい。
また使いたいという人が増えているのは、フイルム販売の継続を願うものにとっては良いことだ。
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祖父のバルナックライカllla用に置き場所も確保した。ISO100のフイルムも装填した。
週末には、祖父がファインダー越しに観ていた世界を覗きにいこう。