僕の中で好きなケーキ・ベスト3に入るであろう「バウムクーヘン」。バウムクーヘンがケーキの部類に入るかはさておきだ。
ランクインの決定打は、他のケーキよりも手軽に食べれる親近感、ハズレのない安心感、そして、年輪の一層一層を丁寧にフォークですくう楽しみだろうか。
これらもさることながら、父親が単身赴任先の名古屋駅のデパ地下で毎回買ってきてくれるバウムクーヘンを、家族で分けあった賑やかな想い出があるからに違いない。
家族は全員で5人。
5等分だから、バウムクーヘンへナイフを入れるのは難しい。この役目はいつも母親だ。
そして、きちんと5等分されているか、隣でチャチャを入れるのは弟の役目。
僕はその間、じゃんけんの手を考える。等分されているはずのバウムクーヘンを選ぶ順番を家族全員参加型のじゃんけんで決めるからだ。
真っ先に勝つのはだいたい姉であるが。
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バウムクーヘンを食べたことはあっても、作ったことのある人は稀だろう。
僕は「朝霧JAM」という富士山の麓で行われた音楽フェスに行った時、ライブそっちのけで、ベースキャンプでバウムクーヘン作りに没頭した。
丸い木の棒にアルミホイルを巻きつけて、その周りにホットケーキの素を垂らして、ゆっくり焚き火の上で回すだけ。
固まったら、ホットケーキの素を追加して、均等に熱が入るように木の棒を回して、年輪を少しずつ太くしていく。
説明は簡単なのだが、最初はホットケーキの素が木の棒になかなか絡みついてくれないし、年輪が育ってくると重くなってきて、手回しが大変。
結局、出来上がるまで2時間を要した。
出来上がり直後は、直火で熱を加え続けただけあって、口の中の水分という水分を奪うほどに乾燥していて、とても食べられたものではない。
一晩寝かせると、富士山が纏う新鮮な空気を吸い込んで、生地がしなやかになり、美味しいバウムクーヘンが出来た。
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人並み以上に思い入れがあるバウムクーヘン。
星のや富士に行った時、無料で食べれると聞いた時には心が踊らずにはいられなかった。
チェックインを済ませて、会場へ向かうも、踊る気持ちとは裏腹に、足をもたつかせる急な登り坂。
デッキに着くなり、バウムクーヘンをスノーピークのスキレットにのせて。
僕はしっとりめが好きなので、少し温める程度に加減。
生クリーム、いちご、ブルーベリー、ナッツ。好きなトッピングを、好きなだけ。
焚き火を囲みながら、バウムクーヘンへフォークを入れる。
数々の美味しい想い出が、
大人になった今も
バウムクーヘンの真ん中にすっぽりと、はまったままだ。